【甲府・躑躅ヶ崎館】甲斐の若きカリスマ・武田晴信公(22)の身辺が、にわかに騒がしくなっている。昨年、晴信公自らの侵攻によって滅ぼされた信濃の雄・諏訪頼重公。その最愛の娘である諏訪御料人(13)が、あろうことか晴信公の側室として甲府に迎えられたという衝撃の情報が飛び込んできた。父を死に追いやった宿敵の側室になるという、あまりにも過酷な運命。そして、それを強行した晴信公の執念に、家臣団の間では動揺と困惑が広がっている。
誰もが目を見張るかくれなき美人
諏訪御料人は、諏訪家の中でも一際輝く美貌の持ち主として知られ、周囲からはかくれなき美人と称賛されていた。晴信公は、諏訪侵攻の最中から彼女の噂を耳にしており、頼重公を甲府の東光寺で自害させた直後から、彼女を自らの手元に置くことを画策していたという。
「殿は、彼女を一目見た瞬間から、その美しさと気高さに心を奪われてしまったようだ」――。本陣に近い関係者は、晴信公の様子をそう語る。しかし、この恋は単なる男女の情愛では済まされない問題を孕んでいる。
「呪われるぞ!」板垣信方ら重臣たちが猛反対
この異例の側室入りに対し、武田家の重鎮である板垣信方殿や甘利虎泰殿らは、真っ向から反対の意を唱えた。「父を殺された娘が、どうして心から殿に仕えようか。枕元で刃を向けられるやもしれぬ」「諏訪の怨霊に呪われる」――。重臣たちの懸念は、極めて現実的かつ切実なものだった。
しかし、晴信公はこれらの反対を一切聞き入れなかった。そこで動いたのが、新参の軍師・山本勘助殿だ。勘助殿は「御料人との間に男子が生まれれば、その子が諏訪の名跡を継ぐことで、諏訪の民の心も武田に懐く。これこそが真の平定である」と説き、ようやく重臣たちを沈黙させたという。
憎しみは愛に変わるのか?
現在、諏訪御料人は甲府の躑躅ヶ崎館の一角に迎えられ、晴信公の寵愛を一身に受けている。彼女がどのような思いで、父の仇である男の傍らに座っているのか。その心中は計り知れない。
戦国の世という非情な理の中で、憎しみと愛が交錯するこの禁断の恋。晴信公の情熱は、果たして彼女の凍てついた心を溶かすことができるのか。それとも、この略奪愛が武田家に新たな火種をもたらすのか。本紙は、甲府の奥御殿で繰り広げられる、この美しき愛憎劇の行方を、引き続き注視していく。
軍神・晴信公をも狂わせる、一輪の諏訪の白百合。その香りは、甲斐の山々にどのような風を吹かせるのだろうか。
